「水入れがあるのに、違う場所で水を飲んでいる」。そんな猫の姿を、猫の飼い主なら一度は見かけたことがあるでしょう。
それが、“ときどき”の猫から“いつも”の猫まで様々ですが、この行動は珍しいものではなく、普通
に見られる行動と言ってもいいかもしれません。
このような行動は、犬ではあまり見られません。
祖先の行動の名残
猫はなぜ、水入れに水が十分に用意されているのに、わざわざ他の場所で水を飲むのでしょうか。
猫が人と暮らすようになって6000年以上。
ペットとしての歴史は古いですが、野生時代に身につけた行動の痕跡は残っています。
この名残が、水の飲み方に現れているとも言われています。
猫の祖先、リビアヤマネコが暮らしていたのは、チグリス・ユーフラテス川の近く(現在のシリア)です。
ここは半砂漠地帯でしたので、水は豊富ではありません。
菓についた夜露や水たまりの水は、とても貴重だったのではないでしょうか。
水を見かけると、その本能が今でも顔を出し、ちょっと飲んでしまうのかもしれません。
その水が、たまたま自分の好みに合っていたなら、またその水を飲みたくなるのは自然なことでしょう。
水のこだわりに個体差
食事へのこだわりも、無頓着な猫から、銘柄や温度を指定する猫まで様々あるように、水へのこだわりにも個体差があります。
飲みたいときに一番近くにある水を飲むというこだわりのない猫もいますし、花瓶の水や、台所の桶のたまり水、トイレの水、お風呂場の床の水、湯船の水(お湯?)、水槽の水、コップの水が大好きという、こだわり派もいます。
また、飲み方にこだわる猫もいます。
水道の蛇口から流れる水に直接口をつけて飲むのが好きな猫や、前足ですくって飲む猫もいます。
そして、温度や水の条件にこだわる猫もいます。
冷たい水が好きな猫もいれば、お湯じゃなきゃダメという猫もいますし、他の猫が飲んだ後の水は絶対に飲まない猫や、蛇口から汲みたての水じゃないとイヤという猫など。
そして、水は食器からしか飲まない、そういうこだわりの猫もいます。
人とは異なる味覚
猫の味に対する敏感さは、
(1)酸味
(2)苦味
(3)塩辛さ
(4)甘味
の順と考えられています。
人と比べて、猫では、酸味や苦味担当の味蕾(舌にある、味を感じる細胞)が多く、塩辛さや甘味担当の味蕾は多くありません。
ですから、食事の鮮度と安全性に関係する酸味や苦味への感覚は鋭く、味わうための塩辛さや甘味の感覚には、比較的鈍感なのです。
このようなことから想像すると、猫が好む水というのは、私たちの考える「おいしい水」ではないのかもしれません。
「おいしい」ことよりも、酸味や苦味がない「安全」と「安心」を感じる水を求めているのかもしれません。
また、記憶が水の味の印象に影響を与えていることもあると思います。
水の味や温度や周囲の条件が、好ましい記憶と共にあれば、その水はその猫にとっては「おいしい水」になるのではないでしょうか。
逆に、悪い記憶とともにある水は飲みたくはないでしょう。
「忘れられない味」などと表現されるように、味と記憶の関係は、私たちも実感しています。 |