高円寺アニマルクリニック
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猫の手帳質問集

第71回
最後を迎える時の気持ち
Q.

うちの『ミーコ」が亡くなった時のことです。

17歳という高齢で、最後の数年間は、よく咳き込んで苦しんでいる姿を目にしました。

けれども最期の時、ミーコはうっとりとした表情で、布団にモミモミ運動を続けながら天国へ旅立ちました。

まるで、子猫が母親に甘えているかのような表情。

猫って皆、亡くなる時に、ああいった表情をするのでしょうか?


A.

 私は臨床獣医師として、多くの猫の死を見てきました。

最期の最期まで病気やケガと闘って亡くなる猫もいれば、闘っている時には苦しそうにしていても、最期の時には静かに亡くなる猫もいます。

力尽きて亡くなる場合もありますが、それとは違った、とても安らかな様子で旅立つ猫も少なくありません。

死を迎える時には、苦しいのでしょうか?

死を迎えるその瞬間は意識もなく苦痛もないと思われますが、死に向かっている時には、呼吸や心臓などの働きが著しく低下するので苦しみや痛みを伴うように思います。

しかし、安らかに、幸せそうに最期を迎える猫はいるのです。

脳内麻薬の分泌が関係

感情に関係している物質は3つあります。これらが感情をコントロールしていると考えられています。

(1)ノルアドレナリン 怒りのホルモンという別名があり、腹が立った時に分泌されます。

(2)アドレナリン 恐怖のホルモンと呼ばれ、恐怖や不安を感じると分泌されます。

(3)ドーパミン 感情を最高に動かす快感物質で、うれしい時や楽しい時に分泌されます。
(1)〜(3)の脳内ホルモンの微妙な配合によって様々な感情が起きているわけです。

例えば、ノルアドレナリンとドーパミンが分泌された場合でも、ドーパミンが多ければ愛情がわいてきますが、ノルアドレナリンが多いと憎しみを覚えます。

脳の中にドーパミンが分泌されると快感を感じ、気分がよくなると同時に脳全体の働きを順調にします。

しかし、ドーパミンが過剰に分泌されると、精神障害を引き起こす恐れがあります。

そこで、ドーパミンの快感・覚醒作用を抑制する役が必要となり、そのシステムがギャバ神経です。

この抑制システムギャバ神経の働きを抑制するのが、β-エンドルフィンなどの脳内麻薬なのです。

つまり、脳内麻薬の働きにより、少ないドーパミンで、有効で安全な快感・覚醒作用が得られるということになるのです。

人では、「死の暖間に脳内麻薬が大量に出ることがある」と考えられています。

脳内麻薬とは、β-エンドルフィンなど約20種の化学物質のことで、化学構造がモルヒネに似ていること、臨死体験をした人の見た光景がモルヒネを大量に摂取した時に見る幻覚とよく似ているなどから、脳内麻薬と呼ばれています。

うっとりとした表情で旅立っていった山本さんのミーコちゃんには、きっとこの脳内麻薬が分泌されたのでしょう。

しかし、どの猫でもミーコちゃんのような死を迎えることができるわけではありません。

穏やかに旅立つために

どうすれば、楽な死を迎えられるほどの脳内麻薬が分泌されるようになるのでしょうか?

それは、脳内麻薬を分泌させるトレーニングをすることです。

(1)束縛を少なくして、のびのびと過ごさせること。

(2)誰かの役に立っていると感じさせること。

(3)狩りに成功する経験(実際には狩りゲーム)。

(4)失敗や困難を経験する。

(1)〜(3)は喜びにつながり、喜びを感じると脳内麻薬が大量に放出されます。

(4)ちょっとした失敗や困難でも、それを乗り越えた時には喜びが得られます。

このように脳内麻薬を放出する機会を増やせば増やすほど、死という最大の難関と向かい合った時にも、脳内麻薬は大量に出てきてくれると考えられます。

苦しそうに亡くなっていった猫の一生が、つらいものだったというわけではありませんが、猫が幸福そうに穏やかに旅立っていったのなら、その一生は喜び多いものだったといっていいのでしょう。


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