質問文にあるような言い伝えが昔からあります。
私も、子供のころにそれを聞いたとき、「やっぱりそうだったのか」と思ったものです。
かなり古い資料にも、そのような記述があるようです。
では、なぜそのように言われてきたのでしょうか?
今は室内飼育が多いですが、ちょっと前までは猫の飼育の主流は、外出自由や食事と寝るためにだけ家を利用する形態でした。
そのように飼われていた猫は、突然姿を現さなくなり、そのまま2度と戻ってこないことがよくありました。
また野良猫の場合も、毎日のように姿を見かけていたのに、ある日から姿を見なくなり、2度と会うことはなかったことも珍しいことではありませんでした。
このような出来事をたびたび経験する中から、“姿を見ない=死んでしまった”と考え、「あの猫は死ぬ
ために姿を消したのだろう」とか「死期が近いことを悟って死に場所に向かったのだろう」という解釈が生まれのだと思います。
しかし、見落としていることがあります。
突然姿を現さなくなった飼い猫が、数週間ぶりに戻ってくることもよくあります。
しばらく姿を見なかった顔なじみの猫を、数週間ぶりに見ることもあるはずです。
“姿を消して2度と現れなかった猫=戻ってこなかった猫、もしくは戻ってくることができなかった猫”であって、死を悟って出て行ったということではありません。
私たち獣医師が診療している猫の中で、生きることをあきらめてしまう猫はいません。
全ての猫が最後まで生きようとがんばっています。
治療によって少しでも体調が良くなれば、ちょっとでも食べようとします。
治療に協力的な猫さえいます。
猫が簡単に死を受け入れる動物でないことは確かです。
私たちは体調が悪いときにどうするでしょう?
治療を受けるのは当然ですが、静かな安全な場所で、休んでいたいのではないでしょうか。
これはほとんどの動物が持っている、自己防衛行動の1つです。
猫も苦しいときやつらいときには、基本的にこの行動を取ります。
静かで安全な特別な場所に移動して、余計なことに体力を消耗しないようにしっかり休みます。
こうして、自分の持つ自然治癒力が、最大限に発揮できるようにするのです。
幸いにも回復できた猫は自分の縄張り (家)に戻っていきますが、回復できなかった猫はそこで死を迎えることになってしまいます。
死を迎えた猫について、「猫は死ぬときには姿を隠す」と言ってきたのです。
結果は同じでも、猫の生きようとする意志からは大きく外れた解釈だと言わざるを得ません。
この習性を知れば、外出自由の猫が(高齢でも若くても)戻ってこないときには、「死に場所に向かった」のではなく「何かトラブルにあって身を隠している」ということが理解できると思います。
猫の帰りが遅いときには、身を隠していそうな場所を探してみると、それが猫の命を助けることになるかもしれません。
また、数日して戻ってきたら、体を調べてみましょう。
怪我や異変が見つかるかもしれません。動物病院でチェックしてもらうともっと安心です。
最も安全な方法は、外出させないことであることは言うまでもありません。 |