猫は単独生活者ですから、自然界で生活していたときには、自分の力で食事(餌場)や休息場所を確保し、その場所が奪われないようにテリトリーをパトロールしなくてはなりません。
この習性が、家猫となっても残っています。
家の中で安全に快適に暮らしている猫にも、争いを好まないおとなしい猫にも、どの猫にもテリトリー意識があります。
テリトリーの大きさは、猫の密度や餌場の数、オスかメスか、発情シーズン、攻撃的な猫の存在などによって変わってきます。
テリトリー意識には個体差があるとはいっても、家の中で安全と食事を保証されている猫と、飼い主のいない野良猫では、テリトリーを守ろうとする必死さでは大きな差があります。
外出自由の家猫が野良猫と争えば、たいていはケガを負って帰ってくることになります。
外出自由にするか屋内飼育にするか、考え方は様々ですが、日本の獣医師の多くは(私も)、屋内飼育を勧めています。
私は、屋内飼育を選択した、白石さんの判断は賢明だったと思います。
屋内飼育のメリットは、安全に飼育管理できることです。
外出すれば、交通事故などのアクシデントに出会ったり、他の猫と争ってケガを負ったり、ウイルスや寄生虫に感染する可能性があります。
また、屋内飼育なら排便排尿や日常生活を観察することができるので、体調の変化に気がつきやすく早期治療につながります。
生活の場を屋内だけに限定するのは、決して残酷な仕打ちではありません。
自然に恵まれ、住宅もまばらで猫密度が低い環境なら、外出自由の生活もいいかもしれませんが、ほとんどの住環境ではそうはいかないのが現実です。
また、同じ地域に住む人たちに、猫を詞うことで迷惑をかけたり、不快な思いをさせないことも猫を飼う上で大切なモラルです。
初めて外出を禁じられた猫は、ほとんどの場合、活発な反応をする時期を迎えます。
どうやっても外に出られない焦りと欲求不満から、破壊活動、神経過敏、やたらに鳴く、夜行性活動などが見られるようになります。
このような猫は、長い場合には数カ月も脱出できるルートを探して家中を歩き回るでしょう。
しかし、どうしても出られないとわかると、諦めておとなしく屋内の生活を送るようになっていきます。
ただ、おとなしくなった猫でも、脱走のチャンスを常にうかがっていると思ってください。
チャンスを与えればすかさず逃げ出してしまうかもしれません。
一度でも脱走できると、その猫の一番の関心事は「脱走するチャンスを手に入れること」になりかねません。
外は刺激でいっぱいだったのです。
家の中でも、人もいっしょに楽しめるような遊びで、できるだけ刺激を与えてください。
白石さんの猫のしきりに鳴く行動も、屋内飼育に切り替えた猫でふつうに見られる反応です。
めげずに「外出させない」という信念を貫くことが大切です。
場合によっては、少量の抗不安薬を処方してもらうのもいい方法です。
かかりつけの獣医師に相談してみてください。
順応期間を短くできるかもしれません。
時間をかけて確かな方法で対応すれば、ほとんどの猫はうまく順応してくれます。
諦めないでください。 |