狂犬病ウイルスは犬だけでなく、人間にも感染する人獣共通感染症です。
そして、猫やタヌキ、アライグマ、コウモリなど、全ての哺乳類にも感染します。
毎年世界中で5万人以上の死者を出しています。
『症状は?』
水音や水に濡れることなどを恐れる特徴的な症状があるため、別名恐水病と呼ばれることもあります。
発熱、頭痛、疲労感、食欲不振、吐き気、咽頭痛、空咳などのカゼのような症状で始まります。
次いで脳炎症状が現れ、運動過多、興奮、不安狂躁から始まり、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作などみられるようになります。
最終的には昏睡状態から呼吸停止で死にいたります。
『感染ルートは?』
多くの場合は、感染した動物に咬まれた傷から唾液と共にウイルスが伝染します。
感染した動物に傷口や目・唇など粘膜部を舐められた場合も、感染する危険性が高いです。
人から人への感染はありませんが、発症した人に噛まれれば感染の可能性はあります。
発症後の死亡率はほぼ100%で、確立した治療法はありません。
記録に残っている発症後の生存者はわずか6人のみで、そのうち5人は発症する前にワクチン接種を受けていました。
「最も致死率が高い病気」として後天性免疫不全症候群(エイズ)とならんでギネス・ワールド・レコーズにも記録されています。
『治療法は?』
発症後の死亡率はほぼ100%なので、発症前の治療が大切です。
暴露(感染)後の治療
発症前(海外で感染の疑いがある動物に咬まれて帰国した際など)の治療としては、抗ウイルス抗体(抗狂犬病免疫グロブリン製剤)の投与と曝露後ワクチン接種の2つの方法があります。
日本では、抗ウイルス抗体が承認されていないため、曝露後ワクチン接種によって治療します。
事前にワクチン接種を行っている場合
ワクチン接種が1年以内であれば2回(当日、3日後)
1〜5年前であれば3回(当日、3、7日後)
5年以上前であれば6回接種(当日及び3、7、14、30、90日後)
事前にワクチン接種を行わなかった場合
6回接種(当日及び3、7、14、30、90日後)
『予防法は?』
暴露前(感染前)であれば、ワクチン接種によって予防することができます。
これはヒト以外の哺乳類でも同様です。
『日本での狂犬病』
日本でも、大正時代までは、狂犬病は身近な恐ろしい感染症でした。
1920年前後には年間約3500件の発生が報告されています。
1922年に家畜伝染病予防法により、犬への狂犬病ワクチン接種が義務化されると、約10年で年間数件の発生にまで減らすことができました。
しかし、太平洋戦争によってワクチン接種が不十分になると、たちまち年間約1000件の発生がみられるようになってしまいました。
終戦後、1950年に施行された狂犬病予防法によって、飼い犬の登録とワクチン接種の義務化、野犬の抑留が行われると、発生は年々減っていきました。
7年後の1956年の発生を最後に、今日まで国内での発生0件を継続しています。
その後50年以上国内での発生がないので、「狂犬病は過去の感染症」というとのイメージが広がってきてしまっています。
そのため、狂犬病ワクチンの接種率は近年低下してきています。
厚生労働使用の調査では、2007年度の登録頭数(≒ワクチン接種頭数)は約647万頭で摂取率は75.6%となっています。
しかし、実際の飼育頭数は厚生労働省調査の855万頭よりも多いと考えられています。
ペットフード工業会の全国調査によると、2007年の犬の飼育頭数は約1252万頭で、この頭数から摂取率を計算すると52%、未登録犬を含めると約40%くらいになると考えられます。
WHO(世界保健機関)は、狂犬病を含む感染症の蔓延を防ぐためには、70%以上の接種率が必要だとしています。
犬による咬傷事故が届出だけで毎年6000件以上報告される現状で、この摂取率はとても危険な数字です。
狂犬病予防法第5条において、 「犬の所有者は、毎年4月から6月の間に1回、犬に狂犬病予防注射を受けさせなければならない」 と規定されています。
今年も、狂犬病ワクチンを忘れずに接種してください。
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