暑い夏に一番心配なのは熱中症(熱射病、日射病)です。
気温が25℃を超えると、熱中症にならないまでも、暑さによる体調不良で動物病院に来院するペットが増えてきます。
熱中症は、上昇した体温を下げられない状況が続くことで、全身のさまざまな機能が不全に陥っていく状態を言います。
犬は人間のように汗をかき、その気化熱を利用して体温を下げることができません。
犬の主な冷却法は呼吸によって熱を放出するやり方で、気化熱と比べるとかなり効率が悪く、これだけでは体温を下げきれないことも多く、体温を下げられない場合には熱中症になってしまいます。
熱中症はひどい場合には重症になることもあり、最悪のケースでは命を落とすこともあります。
熱中症に注意する時期
人の場合、熱中症は6月後半から7月初めと8月に熱中症の発生が多いようです。
6月後半から7月初めは、梅雨の晴れ間や梅雨明けで急に暑くなったときに、 身体がまだ暑さに慣れていないため、8月は熱帯夜が続いて、夜間も体温が高 く維持されてしまうため、に多いと考えられています。
犬の場合、一説では、気温22℃以上、湿度60%以上になると熱中症を発症するリスクが高くなると言われています。
この条件から考えると、犬の熱中症は、4月末のゴールデンウィークあたりから起こる可能性があることになります。
「5月に熱中症なんて、大げさね、脅かしすぎでしょう」と思うかもしれません。
5月、良く晴れた日、午前10時、気温23℃
この日の日なたのアスファルトの温度は何度だと思いますか?
地面に温度計をおくと、5分で33℃を示しました。
午後2時に気温が28℃になったときには、アスファルトの温度は50度を超えていました。
このような中、お買い物で繋いで待たせたり、知り合いと立ち話で座り続けていれば、体温は上昇し熱中症になる危険があります。
実際に熱中症の患者さんは、4月には来院されるようになってきます。
初夏の時期から、熱中症のリスクに注意してください。
熱中症を起こしやすい状況
★暑さが厳しいなかでの散歩やお出かけ
蒸し暑い日中のお散歩は、熱中症の原因となります。
真夏のアスファルトの上は50℃以上に達します。
地面の近くを歩く犬は照り返しによる放射熱を受けやすく、一緒に歩く人間の想像以上に暑さの影響を受けます。
★真夏のドライブ
最近は減ってきましたが、車内での留守番も熱中症の原因になります。
日差しの強い場所に駐めてエアコンをつけずにおけば、車内の温度は急激に上昇します。
そのような環境では、犬は数分で熱中症になってしまいます。
では、エアコンをつけていれば、大丈夫でしょうか?
不慣れな車内にひとりで留守番をさせられ、不安などから興奮すれば体温が上昇して熱中症になる危険があります。
エアコンは入れている、家族も一緒、駐車することなくずっと移動していた、それなのに、犬が熱中症になってしまった、そんな例も増えています。
運転の妨げにならないように、犬自身の安全のためにキャリーやケージに入れている方も多いと思います。
その考え方はとても正しいのですが、キャリーやケージの中は、犬の体温で温度が上がりやすく、エアコンによる冷たい空気が入りにくいこと、を覚えておいてください。
“自分たちは快適に過ごしていたので、犬も大丈夫だろう”と思っていたら熱中症になりかかっていた、ということになりかねません。
★室内での留守番
現代の住宅は機密性が高いので温室のように高温になりやすく、断熱性にも優れている場合には上昇した室内の気温は日が落ちてもほとんど下がりません。
また、家を空けるときは、防犯上の理由から換気を十分にできません。
室内での留守番も、エアコンをつけなければ熱中症の原因になります。
エアコンを入れていれば熱中症を防げるとは言えません。
直射日光が入らないようにカーテンなどで遮光したり、犬が自分で涼しい場所を選べるように行動範囲を広くするなどの工夫もしてあげましょう。
★屋外で過ごす
海や山に連れて行って遊ぶときにも、炎天下で長い時間過ごすようなら、熱中症の原因になります。
屋外飼育の犬には、常に熱中症のリスクがあると思ってください。
1の生活環境で書いたような点に十分に注意してあげてください。
熱中症の症状
1.熱中症も他の病気と同じように、兆候となる症状があります。
・ぐったりして元気がない
・食欲がない
・いつもより息が荒い
・舌が出っぱなし
・よだれが出る/多い
・ふらふらしている
・体温が高い
元気だった犬に、このようなようすが見られたら「熱中症かも?」と疑ってみましょう。
2.熱中症が進み、次の段階になると
・筋肉の震え
・悪心や嘔吐/下痢
・ふらふらして倒れる
・目や口の粘膜の充血
・40℃以上の体温
熱中症が始まっています。 体を冷やして、速やかに動物病院で診察を受けましょう。
3.以下の症状が見られたら緊急に処置が必要です、命に関わります。
・チアノーゼ:目や口の粘膜が蒼白/紫色
・意識の混濁/呼びかけに反応しない
・全身性の痙攣
体を冷やしながら、すぐに動物病院へ向かいましょう。
熱中症への対応
1の初期症状でも軽く考えてはいけません。
涼しい場所に移動して、体をぬらして気化熱で体温を下げます。
保冷剤を薄いタオルにまいて、脇の下や首周り、内股に当てるのも効果があります。
水が飲めるようなら、水を十分に飲ませましょう。
スポーツドリンクを飲んでくれるのなら、プレーンなものを2倍程度に希釈して与えましょう。
スポーツドリンクは吸収が速やかで効果的です。
しかし、冷やしすぎは良くありません。
必ず体温を測って、39℃以下になったら冷やすのを止め、なるべく早く動物病院で診察を受けてください。
2,3の症状なら一刻も争う状態です。
上記の体温を下げる処置をすると共に、直ちに動物病院に連れて行きましょう。
熱中症になりやすい犬ってどんな犬?
1.子犬と高齢犬
生理機能が未発達な子犬や、生理機能が衰えてきている高齢犬は、体温調節がうまくできません。
また、体力も十分ではないので、体温が上がってしまうとその状況に長く耐えることができずに、熱中症になりやすい傾向があります。
2.持病がある犬
持病を持っている犬はすでに生理機能の不調があるので、元気なときよりはずっと熱中症になりやすいといえます。
去年と同じと考えていると、大変なことにもなりかねません。
•心臓や呼吸器に持病がある犬
体温が上昇するとまず呼吸によって体温を低下させようとしますが、その呼吸の負荷によって元々ある心臓疾患や呼吸器系の疾患が悪化することがあります。
また、これらの疾患を持っている犬は、呼吸による体温調節が効率よくできないので、体温が上昇しやすくなってしまいます。
・腎臓に持病がある犬
暑くなると呼吸を増やして体温を下げようとするので、夏は、呼吸によっても水分を失います。
腎臓疾患の犬はオシッコもたくさん出るので、脱水によって熱中症になるリスクがあります。
水はいつでも好きなだけ飲めるようにしましょう。
人用のスポーツドリンクは毎日飲むのには適していません。
毎日飲ませるのなら、犬用の電解質飲料を使うようにしましょう。
3:太り気味の犬
「太っている≒脂肪が多い」ですが、この脂肪は熱を通しにくいという特徴を持っています。
寒いときにはこれはとても有効ですが、暑いときには体温を下げにくくしてしまいます。
また、脂肪が多いと心臓に負担をかけますし、首まわりの脂肪は呼吸器系を圧迫することもあります。
脂肪という断熱材と呼吸機能の低下によって、体温調節が十分にできなくなれば、熱中症になりやすくなります。
4.熱中症になりやすい犬種
1.短頭種:鼻が短い犬種
シーズー、ペキニーズ、パグ、ブルドッグ、ボストン・テリア、ボクサーなど。
短頭種はその頭の特徴から、普段から呼吸器系の病気が発生しやすい犬種です。
鼻や気道の構造上、スムーズな呼吸がしにくいという特徴を持っています。
暑いと、熱中症と共に呼吸器系の問題も発生しやすくなります。
2.毛が厚い犬種/出身が北方系の犬種
シベリアン・ハスキー、ボルゾイ、グレートピレニーズ、シェットランド・ シープドッグなど。
北方系の犬は被毛が密で厚いという特徴を持ち、寒さに適応した犬種です。
暑さと湿度をとても苦手にしているので、他の犬種よりも熱中症には十分な注意が必要です。
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